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2023年9月

数の仕組みについて学ぶ学習で、「0と1の間には何がある?」という質問から始まりました。0.1, 0.2...と小数の数をみんなが言い、先生がホワイトボードに書いていきます。次は「0.4と0.5の間は?」という問いで、0.41, 0.42...とさらに小さい数をみんなが言って先生が書きます。「0.46と0.47の間は?」と続き、0.461, 0.462...と小数第三位までを全体指導で行いました。

その後、真っ白い画用紙をペアに1枚ずつ渡し、自分の好きな数で仕組みを書くよう指示を出していました。ものすごく大きい数を書き始めるペア、板書にある小数第三位の続きから始めるペアなど、設定した数字がみんな違っていました。しかも画用紙なので、線を引くところからスタートしなければならず、書きながら目盛りが足りないことに気づいたり、多すぎて消したりしていました。

隣のクラスでは、同じ授業を外で行っていました。周りにあるものを使って数の仕組みを表すということで、子どもたちは木の枝や石、松ぼっくりなどを並べて数の目盛りをつくっていました。大きい石を並べて、間に小さい石を9個ずつ置いていったペアの子たちは、途中で大きい石の間隔が狭いことに気づき、並べる場所を変えていました。先生は、どちらのクラスでも各グループに声をかけながら見て回り、最後にお互いに仕上げたものを共有して終わりました。

授業を見ながら、私だったらと考えました。きっと最初から目盛りを印刷した紙を子どもたちに渡している、そして全員同じ数から始めるよう指示している、ということに気づきました。こちらの1クラス20人、サポートする先生付きという環境と違って、日本は1クラスの子どもの人数が多く、ほぼ1人で授業をします。だから、初めから目盛りをつけ、同じ数にすることで合っているかすぐに確認できるようにしたいけれど、子どもたちにとってはどうなのだろうと考えさせられる授業でした。
<研修目的>
大学生のころから、海外でどのような教育がされているか興味があり、アメリカの学校を見にいったり、イギリスの学校の指導案を分析したりしていた。そして、日本で教師となり、日本の教育現場の良さや疑問点をたくさん見つけることができた。日本の教育現場をある程度理解したうえで海外の教育に触れ、これからも日本の学校で働く自分が、日本の子どもたちのために自分ができることは何かを考えたいと思った。そして、双方の国の教育の良さを取り入れて、子どもたちに返していけるのではないかとも考えた。

また、これから世界で活躍する日本の子どもたちには、多面的な視野を持つことが大切だと思う。世界のことに目を向けるきっかけを作れたらと思い、参加を決めた。また、昨年度、今年度は英語専科を担当している。英語を学ぶ意義を感じることや、それが伝わったとの嬉しさ、もっと学びたいという意欲を子どもたちに持ってもらうために、まず自分がそのような体験をしたいと思った。英語力に自信をつけ、今後の自分の授業も改善を加えながら、子どもたちに自分の知識と経験を伝えていきたいと思う。

<研修概要>
期間:2023年7月22日~8月5日
場所:Tullamore Central School
(Hinkler St, Tullamore, NSW, Australia, New South Wales)
人数:就学前~高校生 53名

<学校の制度や様子>
小規模の学校であり、Kinder(最年少5歳)からSecondary(おそらく最年長16歳ぐらい)間で、子どもたちが53名という人数だった。主に小学生以下は複式学級であり、5歳から小学2年生までが一クラスで教師が1人+サポートティーチャー1,2人、小学3年生から小学6年生が一クラス、これをを2つに分けて教師が2人で子どもたちを見ている。

月曜日にはAssemblyという朝の集会があり、そこで校長先生が、先週頑張った子たちを表彰したり、先生たちの連絡事項を伝えたりしていた。また、最後には、オーストラリア国歌を歌って終わる。

毎朝、サポートティーチャーたちが、朝食を作り、希望者には朝食提供をしている。

授業は日本と違い1コマが長い。また、日本で言う20分休憩(長休み)にあたる時間は、ressesといい、子どもたちは教室の外で軽食を食べる。教師もスタッフルームに集まり軽食を取りながら話をしている。昼も同様に外で食事をし、そのまま遊びの時間に入る。教師はressesか昼休みにどちらかには、dutyとして子どもの見守りのために外に出ている。(外で食事をしている教師もいる。)

授業のときには、授業を担当する教師のほかに、サポートの先生が入ることがある。教員免許を持っていない人もいるようだが、仕事のサポートをしたり、授業についていくのが難しい子たちについたりと子どもたちにとっても、教師にとってもありがたい存在である。また、教師が休みの時は、外部から「カジュアルティーチャー」という代理の先生が来ることもあるようだ。

自閉症や学習に課題のある子たちも多い。サポートティーチャーがつくだけでなく、下の学年と一緒に学習をしている子たちもいた。
日本と違い、子どもたちが掃除をする文化がなく、クリーナーと呼ばれる業者が入る。

ほとんどの子どもたちはアクセサリーや時計をつけており、それについての指導はない。

教室の中は、さまざまな掲示物が貼ってある。子どもたちの作品や、算数の問題を解くときの手順、かけ算などである。図書室もカラフルで、万国旗が吊られている。この点はユニバーサルデザインの観点でシンプルになっている日本とは大きく違う。

<研修内容まとめ>
〇オーストラリアを学ぶ
[1]教育
「海外の教育は良い」「自由である」というのはよく聞く話ではあるが、根本的なところは日本もオーストラリアも同じであると感じた。子どもたちはしっかり学び、よく遊ぶ。教師たちは、今の子どもたちにどんなことが必要かを考えて授業を組み立てる。これが、教育の根本であり、個々に関しては、日本の教師もオーストラリアの教師も同じである。そのアプローチ方法や教育システムの違いはあるが、双方の国の良さを感じることができた。

~Kinder~
① 子どもたちを4つほどのグループに分け、12分を1タームとしていろんな学習をする。例えば、先生と一緒に短い物語を読みながら、中身について考えていく、国語のような授業。自分で単語を指さしながら読む練習。先生が言った単語を書く練習。文章を書く練習。フルーツタイム。フォニックス。mini単語テストといった内容であった。単語を書くときには先生は常にフォニックスを使い指導しており、低学年の子どもたちでも簡単な英語を書くことができていた。

算数の授業では全体で集まり、全員ができる内容を学習する。(例えば、音楽に合わせて5とびを言えるようにする。さいころをふり、出た目のたし算をする。)それが終わると、学年ごとに分かれ、その学年に合った学習をする。

→5歳の子どもたちは「8」を見つける授業で合ったり、ブロックを使ったたし算の学習をしたりしていた。子どもたちが実際操作して理解していくのだが、ここでのブロックは、いわゆるおもちゃのブロックのようなものを使っている。日本人の子どもたちが使う、算数ブロックはとてもいいツールであると実感した。

→年が上の子たちは、2桁+2桁の計算を考えていた。3種類の考え方があり、3種類すべてを使って、問題を解いていた。

③読み聞かせの時間もあり、子どもたちは楽しそうに物語を聞いていた。

④生活科の授業では、五感を使った活動が多く、水を体で表現したり、外で聞こえる音って何だろう?とみんなで外に行ったりと、子どもたちが楽しく学べる活動が多い。

⑤体育はマット運動を外で行う。始めにしっかりウォーミングアップや体力づくりをする。マットは、小さい子でも運べる折り畳みサイズ。後転の指導で使われていた坂道の道具に、ほとんどの子が後転をできていた。

~Primary~
①算数では、始めに全員で学習し、そのあと学年ごとに分かれる。先生は、どちらかの学年につき、新しいことを指導する。

②英語の授業は、毎朝のルーティーンとして、単語の書き取りがある。1週間を単位とし、毎日単語を書き、それを読む練習をする。そして、その中の言葉を使って、自分で文章にする。日本で言うと、漢字学習ノートを使っての漢字の学習という感じである。これについては形を変えて日本でも同じようなことができるのではないのではと考えた。
また、3つの絵カードが前においてあり、子どもたちが持つ説明のカードがどの絵に当てはまるものかということをみんなで考える授業もあった。

③劇の台本が配られ、それを読む練習をする。最後にみんなの前で発表する。先生は成績をつけていた。

~Secondary~
①一つの言葉について、意味、同じ意味の言葉を辞書を使って学んでいく。一度にたくさんの言葉ではないこと、同じ意味の言葉も合わせて学ぶという点は日本でも生かしたい。

②即興の授業がある。キーワードが書かれた紙を3枚配り、それに合った劇をグループで考え、見せあう。そして、キーワードが何だったかを相手のチームに考えさせるというもの。思春期の子どもたちのクラスであったが、みんなちゃんと話し合いに参加し、劇もしていた。

③学校で使うベンチや、バーベキューの鉄板を作る授業。子どもたち自身が鉄を切ったり、溶接をしたりしながら、下の学年の子たちのためにものづくりをする。音楽をかけながら作業を行っていた。

<日本との違い>
① 教科書・ノート 教科書を使い、教科書の流れに沿って教えていくのではなく、教師が今日の課題を提示して授業が進んでいく。ノートは基本学校に置いておき、必要な時に配って使用する。どの学年のノートも罫線である。文字を丁寧に書きましょう、姿勢を正しましょうなど、規律の面での指導は日本より少ないように感じた。

②プリント 教師が自作のプリントを使うことがほとんどなかった。日本では、ワークシートを手作りして子どもに使わせることがあるが、この学校では、市販されているワーク、もしくはその一部をコピーしたものを使用することがほとんどだった。ワークを使うことも、プリントを作ることも、双方にメリットデメリットがあるが、教師の負担軽減という面では大いに役立つと考えられる。また、子どもたちの指導に不都合なものもなかった。(ワークを使わないときは、ノートやホワイトボードに書いていることが多い)

③自分たちで学ぶ 複式学級であることも大きな要因であるが、子どもたちは自分で学ぶ時間が長い。また、そのようなときには真剣に話し合うこともあれば、冗談を言いあいながら課題を進めていくこともある。しかし、「学習は自分たちでするもの」という認識が根底にあるように感じた。グループで話し合い、全員が間違えた答えを出すこともあるが、そこから先生の話を聞き、自分たちの理を深めていく様子が見られた。

[2]文化
アボリジニの文化を大切にしていることが分かった。先住民だったアボリジニたちは、イギリス人がやってきたときに、迫害を受けた。このことは学校現場でも取り扱っている。そして、アボリジニの文化を教える先生がいて、言葉やアート、旗のことについて授業をされていた。同時期に、オーストラリアでは女子のワールドカップが行われており、そこでも、オーストラリアの国旗と共に、アボリジニの旗も掲げられていた。この旗はいたるところで見られる。また、学校ではアボリジニのアートを壁などに描いているところが多く、オーストラリアの人たちにとって、大切な存在であることが分かる。オーストラリアの国歌は美しく、前向きな歌詞であるが、その歌詞の中にアボリジニの人たちのことは入っていないということを教えてもらったのが印象的だった。

そして、オーガニックやエコの考え方も日本より進んでいる。オーストラリア産のものが多く、オーガニックやヴィーガンと書かれているものもたくさんあった。また、カフェで受け取る、カップやストローもほとんどが、コンポストできるものであったり、紙製だったりする。日常に当たり前にこのようなものや考え方が散りばめられており、オーストラリアの国としての環境への考え方が分かった。

[3]土地
広大な平野であり、動物を飼っている家も多い。朝は鶏の鳴き声が聞こえ、車で走っていると、牛、羊、馬、やぎなどたくさんの動物たちに出会う。また、野生の動物も多く、変わった鳴き方をする鳥やカンガルーを見ることもしばしばある。しかしその一方で、野生動物と車の衝突事故は避けられないようで、たくさんの動物が道端で死んでいるのも見た。そして、行った時期は冬だったが紫外線はかなり強い。オーストラリアの人々は、冬でもサングラスをかけている。また、空気も乾燥している。同じ州の中でも大きく違っており、ポートマッコリーという地域では、半袖で十分なほど暑かった。ちなみに、タラモア・ポートマッコリーは、シドニーと同じNew South Walesという州であるが、この州を横断するのには約16時間かかる。

〇日本文化を伝える
[1] 話の中で・・・
始め、子どもたちが日本のことをほとんど知らないということに驚いた。日本では、アニメや漫画は世界中で人気であり、旅行先としても日本はとても人気の場所である、という認識だった。が、田舎ということもあったのか、漫画やアニメも1部の子たちしか知らず、ある子は、中国、韓国、日本の地名がこんがらがっていた。一番子どもたちの認知度が高かったものは、「桜」と「ポケモン」だった。それでも、日本について興味は持ってくれているようで、「これは日本ではどうなの?」「日本語で○○は何て言うの?」などたくさん質問してくれた。

[2]文字
日本から、プリントを作って持っていき、ひらがな・カタカナの50音表や1年生で習う漢字の一覧を見せた。そして、文字を書いてみよう!ということで筆ペンを持参し、「こんにちは」「ありがとう」「コアラ」「侍」等の文字を書いてみた。
そこではいくつか反省すべき点があった。濁音は50音表に載っていないにもかかわらず、「ありがとう」には濁音が出てくる。この点々がどの文字につくのかが分かりにくかったようである。また、「こんにちは」の「は」を「わ」と読むことに対しても質問があった。私たちが英語を学ぶときに悩むように、日本語にも、小さなきまりがたくさんあり、それを日本人はちゃんと海外の人に分かるように説明することは難しいのだということを痛感した。
最後に、子どもの名前をひらがなで書いてあげて、写して書いてみるよう伝えた。ここでも、ひらがなで書いたことにより、小さい「ぁ、ぃ、ぅ、ぇ、ぉ」が出てきてしまい、これについては反省ポイントだった。

[3]折り紙
和柄の折り紙を持っていき、何を作ろうか悩んだ結果、紙飛行機を作った。子どもたちは楽しく作り、飛ばしてくれていたが、一人の女の子は折り鶴を知っていたようで、「鶴、折れる?」と聞いてきた。折ってあげるととても好評で、自分でも折ってみたいと言い、難しいながらも頑張って折っていた。

[4]兜
日本から日本語の新聞を持っていき、兜を作った。小学生たちは「侍とは?」というところから始まり、画像を見せると「かっこいい!」と盛り上がり、ノリノリで折っていた。完成したらとても嬉しそうで、戦いごっこを始める子もいた。また、帰りにかぶって帰った子もいた。

[5]お箸
お箸自体が家にない子がほとんどで、持ち方から教えた。そのあと、持参した緩衝材を使って、何個、つまめるかの競争をした。意外とみんな上手だったが、難しく感じる子たちもいて、緩衝材に突き刺して運んでいたので、それは実は良くないマナーなんだよ、と伝えた。でも、どの子も興味を持って取り組んでくれて、「お箸が欲しい!」と言ってくれた子もいた。日本に来たときは、お箸でご飯を食べてみてねというと、とても嬉しそうだった。

[6]おにぎり
おにぎりを作るために、ふりかけと海苔、あと緑茶と梅昆布茶を持参していた。おにぎりで一番困ったのは、現地のお米がパラパラで固まりにくかったこと。また、子どもたちは素手で握ることに抵抗がある子もいた。そして、三角にするのが難しかったようで、机の上で山を作っていた子もいた。味はおいしいと言ってくれていたが、のりや梅昆布茶など、初めて食べる子どもたちが多かったようだ

<研究成果と展望>
教育目標・文化・歴史など、何もかもが違う国で学ぶことは多く、オーストラリアの良さを存分に感じることができた。また、改めて日本のすばらしさにも気づくことができ、視野を大きく広げることができた。

2週間、自分が楽しく過ごすことができたのは「人の温かさ」のおかげであると思う。みなさんに「受け入れてもらった」という経験をし、感謝の思いでいっぱいである。また、日本に来る外国の方々に対して、自分もこのような温かい気持ちで接したいと思った。そして、これは学校の子どもたちにも伝えていきたいと思う。言葉だけではない優しさの伝え方を子どもたちが学び、それを他者に
向けることで、子どもたち自身の成長、そして集団としての成長につながること願う。また、世界は一つであるということを実感し、「平和学習」にも生かすことができるといいと感じた。

教育現場は、日本と大きく違う。国としての制度や、学校ごとのシステムなど驚きの連続だった。しかし、「オーストラリアはいいな」「日本はこういうところがだめだのだ」という視点ではなく、「日本の良さを生かすためにはどうしたらいいか」「今ある制度や決まりを上手に使っていくにはどうしようか」という前向きな視点で日本の現場に戻ってくることができた。
オーストラリアでは、「ライフワークバランス」という言葉が会議で出されるほど大切なものだそうだ。仕事にやりがいを持ち、心身ともに健康で働けることは、とても大切なことである。私自身のことだけでなく、周りに目を向け、職員室全体が明るい雰囲気を持てるよう、自分ができることを考えたいと思った。

英語を話すことは大切なことである。自分の英語力をもっとあげたい、今のままではだめだと痛感したのはもちろんである。しかし、それはあくまでツールであり、人と人とのつながりは言葉だけでないということも感じた。このような経験から、「生きた」英語を、「話したい」と思える子どもたちに「楽しくて、分かる授業」ができるような教師になりたいと思う。

今回の研修の学びを、子どもたち、他の先生方に返し、教育の現場をより生き生きとした場所に変えていきたいと強く思った。


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