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2012年3月

この3月で、一年間の研修が終了する。フィンランドの理科教育を見学し、その一部に携わりたいという出発前の目標は達成され、大いに満足している。徹底的に少人数化した環境、問答形式の授業、自学自習可能な教科書、データ・公式集持ち込み可の卒業試験、専門家による学習カウンセリング、これらが有機的に結びつくことで、一人一人の生徒に考え方を理解させるという共通目標に向けた毎回の授業が行われていることが分かった。

一方で、実験・観察を通じた本物の体験という視点で見ると、必ずしもフィンランドの理科教育が優れているとは言えない。実験室の設備が貧弱であること、気候的な問題からフィールドワークなどの実習をしづらいことなど、原因がある。それでも、ICTを活用して充実した教材を使ったり、近隣の大学や高等専門学校と連携してレベルの高い実験をしたりするなど、工夫が見られた。

教員の生活については、教師に求められていることが担当教科を教えることだけなので、自分の時間をたっぷりと得ることができ、余裕のある生活ができている。部活の指導や宿泊行事の引率がないこと、進路指導は専門の学習カウンセラーが担当すること、通知表の所見欄や指導要録が存在しないこと、校務分掌が圧倒的に少ないことなどを見ても、日本の教員が忙しすぎると感じた。

フィンランドには私立の学校がほとんどない。しかし、それぞれの学校の校長や教員に学校運営における決定権がある点で、日本の私学に似ている側面があると感じた。基本的に専任教員の異動がないことも、学校ごとの多様なカラーを出すことにつながっている。また、分からないことを塾ではなく学校の教員に聞くという当たり前のことが成り立っており、フィンランドの学校が生徒・保護者から信頼されていることを少しうらやましく思った。

一年間お世話になった研修校とは、日本の勤務校との短期交換留学プログラムを開始することになった。早速、8月下旬から8日間の予定で、中学生20人を連れて再び訪問することになっている。お互いに第二言語である英語を使ってコミュニケーションをとりながら、フィンランドと日本での暮らしや学校生活を体験することで、英語が世界中の人々をつなぐ重要な言語であることを認識し、異なる価値観を受容する心と広い視野を持った生徒が育つと信じている。この縁を大切に、新しい試みに挑戦しつつ、これからの教員生活をより充実させたい。

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