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11月に入り、月末に一気に冷え込んで積もった雪も解け、『魔の11月』が始まった。暗くて陰鬱な、一年で最も鬱が増える季節だと言われる。確かに、一日中暗く気持ちが沈むのがよく分かる。私も気候とホルモンの関係で、何も手につかないやる気の起きない日々があった。北欧デザインが日本でも近年人気であるが、あの白木の家具や、ビビッドな色・柄のテキスタイルなどは、この陰鬱な日々を少しでも快適に過ごすための知恵なのだと思える。

また、ここでは誕生日を迎えた場合、「誕生日おめでとう!」とケーキが出てくるのではなく、「誕生日です!」と当事者がケーキを振る舞う。うちの学校だけかと思っていたら、この国の習慣なのだそうで、おかげさまで無事にまた一つ年を重ねられましたよという周りへの感謝の表れなのかもしれない。最初は衝撃であったが、郷に入ってはということで、私も今月の誕生日にはベイクドチーズケーキとレアチーズケーキを作って行った。自分の誕生日にケーキを焼いたのは初めてだったが、いい経験だった。人間関係の希薄なこの国にあって、これは職場の環境作りに一役買っていると言えるのかもしれない。

先月ら引き続き、一年生対象のtiimijakso(チームビルディング)に見学に行かせていただいている。ただし、こればかりが一日中続くので、生徒も飽きてしまい、集中力が続かない。参加する生徒、しない生徒にも分かれてくるし、舵取りの仕方は難しい。気になるのは、やはり担当の先生方の疲労度合いである。3学期は教科指導はなくこれだけ、しかも一日中、しかも初の取組、となると疲れるのも仕方ない。一年を通して割り振る、週のうちもしくは一日のうち一時間とか数時間とか、バランスを考えた方がいいのではというのが個人的な感想である。今月28日に3学期が終了したが、それとともにtiimijaksoも終了した。29日から4学期が始まっているが、やっと普通の授業に戻れるという声が聞かれるのは、やはりそれだけしんどかったということでもあると思う。この取組に関しては、趣旨に関しては賛成するけれど負担が大きいという意味で反対されている方も多い。日本の総合的な学習の時間を、負担が少ないと教科科目に読み替えてしまうのと考え方は似ている気がする。以前近隣の学校でもこれに取り組まれたが、負担の大きさからその一度きりで終わってしまった経緯があるそうだ。今後この学校がどうされるかは分からないが、今回を失敗と結論付けて終わってしまっては残念である。それに実際チームビルディングはフィンランドの生徒に必要であると自信を持って言える。「自主自立」を小さいころから叩き込まれるこの国の子どもは、自分自身の責任はとれるが、組織で動くということは本当に苦手のようである。決して眠ることなく授業にはきちんと向かえる生徒が、こういったチームでの取組になったとたん、床に寝そべり、頭上には紙飛行機が飛び交い、外部講師が話すも、携帯から目を離さず、私語ばかり...と、参加姿勢としては最低なのではと思えるもので、あまりの変貌ぶりに驚きが隠せなかった(本校は市内でもトップレベルの学校である)。日本であれば体育の先生の怒号が飛んでくるところであるが、フィンランドの先生は嫌な顔はするが、叱り飛ばすということは絶対にしない。それも国民性なのかもしれないが、これは講師に対する礼儀や話をきくマナーという意味でも、世界的なスタンダードという点でも、しっかり指導するべきところなのではないかという風にも感じる(そう思うのは日本人的考え方なのかもしれませんが)。

そして、こういった協働作業の機会が少ない問題点は、協調性が育たないのもさることながら、リーダーシップが育たないことが大きな問題であると思う。チームによって、何人かはきちんと活動をする生徒はいるが、チーム全体を仕切る、まとめる、という生徒の存在は皆無である。やる人はやる、やらない人はやらない、そしてやらない人を誰も注意しない、と、ここでも個人に任されている感があり、チームビルディングであってチームビルディングでないというのが正直な感想である。そこには、チームのメンバーや講師など、相手に対する敬意というものが全く感じられなった。こういった状態を自分たちが問題視していないというのが一番の問題ではないかと思うし、この子達にこの科目が必要だと思われた先生方の意見は正しいと思う。

フィンランドの学校教育は世界的に有名ではあるが、大学教育に関しては耳にしないように思う。ここの大学院におられる日本人研究者によれば、学者は他国での学会に行ったところで、横のつながりを作らずに帰ってくる、とため息をついておられた。また、どこかの国とのプロジェクトでも、その国出身者がいるのにその人物に声をかけず、アドバイスも受けず、そこにある人脈の使わず、ということが多々あるらしい。本当にプロジェクトなどの活動や人脈作りなどが不得意、というよりやり方を知らないという方が正しいようだ。現状では、協調性やリーダーシップを育もうにも学校の教育活動にその機会がないため、形を変えてでも、こういった活動は継続した方がよいと思う。ただし、講師側のコーディネートの仕方にも問題を感じた。数人での活動は成り立っても、1チームの人数が多くなればなるほど統率しづらくなり、蚊帳の外の人間が出てきてしまうのは当然だ。与える側の力量が問われることを痛感する。まずはマテリアルの充実や、方法の見直し、講師の育成が急務である。

一年に一度の、救命救急講習があった。座学に一時間、実技に一時間である。私は最初の一時間の時間帯には授業があったため、実技から参加。人工呼吸や心臓マッサージ、AEDの使い方など、やることはほぼ日本と同じであった。ただし、日本のように「大丈夫ですか!」「誰か救急車お願いします!」「意識なし!」「気道確保!」など指差し確認、声出し確認はなかったが、これは絶対にあった方がいいと思った。心臓マッサージでは、なんとBee GeesのStayin' aliveがかかり、この速さで心臓マッサージをするようにと指示があり、びっくりした。実際に人形を使ってやっていると、少しスピードが速いと言われ、救命士さんに、真横で"Stayin' alive"を歌われた。今後心臓マッサージをするときには、私の頭には永遠にこの歌が流れると思う。



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