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2014年10月02日・Yuta Abe・ フィンランド , 海外教育交換プログラム
 フィンランドで11番目の規模の小都市Poriで、Kyu Cupが開催される。Tampere、Espoo、Helsinki、Oulu(道場名は北風兄弟)そして我らPoriの道場、Helsinki大学学生、そして全日本剣道連盟の先生が率いるTurku大学留学生、ロシアからSt. Petersburg 道場。昨晩、会場準備をする際に、更衣室の表記を「フィンランド語、英語、日本語、ロシア語にしなきゃあ」と言っていたヤニの言葉の通り、国際色豊かな大会になった。ロシアは車で長時間をかけて来て、昨晩は合同稽古の後、ポリ道場に宿泊した。遠路はるばる来てくれたのにロシア国旗を準備できなかったことが申し訳なく思う。
 現在段位を取得している私は「級」大会には選手として参加できない為、審判員の役目を仰せつかった。フィンランド人同士であれば、フィンランド語で審判をする。といっても初心者の部で「Kaksi Kelta Men.(面打ち2回!)」と指示するだけなので困難ではない。ロシア人をはじめ各国の留学生も混じるため英語が基本公用語となる。そして身振り手振りも交えて「One-step forward(一歩前へ)、Nine-step apart(九歩の間合)」と選手の立ち位置を促したり、鍔競り合いの反則を英語で説明したりする以外は全て「日本語」の発声となる。大会には日本人の先生が名誉会長としていらっしゃる。剣道国際化の先駆者として、Finlandでkendoが親しまれる為に欠くことのできぬ存在として認知されている。
 アンナは銀で終わった。ポリ道場では一週間前から朝練も導入し、気迫充分に挑んだが判定制の基本稽古の部で負けてしまった。誤審ではないけれども判断基準が違う審判の価値観がもたらした結果であった。名誉会長の先生も後に、アンナが一番声が出ていて打ちもキレイだったと褒めてくれたが、その感覚は日本の感覚なのだろう。声と手と足が三拍子揃う打突(剣道ではこれを「気・剣・体の一致」と呼ぶ)よりも、手足バラバラでも打ちに威力がある・良い音がした方が優勢になってしまった。アンナの兄オスカリも一回戦で負けた。ポリ道場には、負けて悔し泣きする門下生が集うからこそ、私も続けて通いたくなる。とはいえ今日の個人戦は早々に敗退してしまったので、明日の団体戦にかけることになった。
 私は主審に入る前に、高校剣道で一本になる基準を頭からぬぐい去ることと、海外で剣道をする剣士にとっての一本は何なのかを考えながら挑もうとしたけれど、結局結論が出せなかった。先の基本稽古の部の判定が余計に混乱させた。気・剣・体の一致は?残心は?間合いは?そんなことを考えているうちに場外反則で一本取られてしまう選手以外、誰も一本を取れずに引き分けになる試合ばかり続いてしまった。名誉会長の御教示を仰ぐ。「阿部さんね、厳しすぎ」
 「incentiveを与える為にはちょっとした良い当たりも一本としよう。足と手が合い残心までの全てを見たかったのだろうけれど、そこまで技術があるわけではない。引き技も同様で強く打てる子と力がない子が一緒に戦うわけで、日本のように低学年の部、高学年の部と年齢制限をしないから、打突部位をしっかり見てあげて当たったら一本!審判が取ってあげないと「今のは一本にならないのかな」と子どもは思ってしまって次からは打たなくなってしまう。」全てのヨーロッパ地域に、日本の風土で剣道を享受した先生がいるわけではない。言葉の壁を超えて、日本人としてkendoを根付かせるための姿勢がそこに在るような気がした。既存の価値観を教えるのは容易い。「I don't think so. In Japan~」という押付けだけは私も回避したが、ただそれには何度も何度も各地で集まって合同稽古を開き、多くの人間たちと見解を統一していく必要があろう。有段者が上から物を言うのではなく、選手に気付きを与えて成功体験を積ませる。その信頼が図らずも、剣道に対する敬意と愛、さらには日本語を勉強したいと思う門下生が現れることにつ
ながる。名誉会長は他のフィンランド人審判にも一本になる打突の議論を持った。それは指示ではなく、どう思ったか意見をすくい取り話し合うという、紛れもない議論の場だった。
  以降は翌日まで、我々審判団はガンガン旗をあげ、打ち消し合い、試合後に反省検証を行っていった。Turku大学の団体戦を名誉会長の先生と共に見ていた。「あのインド人の女の子は10ヶ月前に始めたばかり。副将の彼は医学部でもう2年くらい剣道やっているかな。すぐ小手に行っちゃうんだ、気が小さいのかね、まっすぐがーんと面に行けば良いのに。ほらまーた小手行った。面だ面、行けっ行けっ!そうそう、それで一本だ。」小声で独り言を言いながら表情は楽しげであった。団体戦はOuluの北風兄弟(道場名)が優勝した。袴の下にヒートテックを履く必要もないほど、エキサイティングな1日であった。

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